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Author Archives: 河村 拓

hideにみる音楽の本質

昨日紹介した茂木健一郎さんの著書「思考の補助線」における以下の内容に照らして、あるミュージシャンについて考えてみたい。

総合的知性が、ある専門性における鋭利な達成につながる。ともすれば、純粋音楽家とみなされがちなモーツァルトにおいても、そのオペラにおける徹底した愛の原理、平等、博愛の精神の貫徹を見ればわかるように、実際には人間というものが置かれている状況に対する理解と感受性から作品が生み出されている。

以前もそうだったとは思うが、特に最近、日本の音楽が薄っぺらくなったなと思う。
売れることが唯一の目的となり、中身の質が重視されない商業主義的な考えを持つレコード会社、ミュージシャンが増えているのだろうかとふと考えることがある。
音楽を職業としている以上、売れることは当然必須条件ではある。
しかし、その先にあるもの、例えば音楽で世の中に問題提起したり、人々に問いかけ、影響を与えるような、より高次のビジョンも大切ではないだろうか。
万人受けする、分かりやすいが深みのない陳腐な歌詞をノリで歌ったような曲に、私は魅力を感じることが出来ない。
そんな私が最近よく聞いているのが元X-JAPANのギタリストであり、ソロミュージシャンとしても活動したhideの残した音楽である。
一時騒動になったことで覚えている人も多いと思うが、1998年5月2日、彼は他界してしまった。
今でも私や多くのファンの心をhideが捕らえているのは、その逸脱のパフォーマンスや人々を惹きつけるカリスマ性のようなものもそうだろうが、彼が書いた歌に現れている彼の人間性なのではないだろうか。
彼の歌には、彼の優しさや思想、メッセージが込められている。
1996年6月24日に出された「MISERY」の中で彼は

悲しいというならば 空の青ささえも
届かないもどかしさに 君は泣くんだろう
君の小さな体包んでる夢は 痛みを飲み込み 鮮やかになる
Stay free my misery 手を伸ばせば感じる その痛み両手で受け止めて
Stay free your misery 愛しさを 憎しみを 全て受け止めて そのまま
Stay free my misery 降り注ぐ悲しみを その腕の中に抱きしめて
Stay free your misery 枯れるまで踊るだろう
全て受け止めて この空の下で 君が笑う

と歌っているが、これは当時出会った難病を患った彼のファンである少女へ向けたメッセージだと思う(詳しくはWiki参照「http://ja.wikipedia.org/wiki/Hide」)。
彼が生きている間に出した最後の曲、「ROCKET DIVE」の中では、彼は若者に向けて夢に向かって飛び出せと言う。
その後彼は他界してしまうのだが、彼は死ぬ前に「ピンク スパイダー」と「ever free」の2曲を既に発表予定していた。
「ROCKET DIVE」「ピンク スパイダー」「ever free」は3部作として作られた。
1作目で夢に向かって飛び出せと言った彼は、2作目において「しかし現実はそううまくいかない」ということを、ピンクの蜘蛛が空を飛ぼうと蝶の羽を奪って身に着けてみるが、うまく飛べずに墜落する姿に例えて語る。
そして3作目だ。
私は以前までその歌詞を、「それでも夢を見ることは大切なんだ」と語っているのではないかと解釈していた。
しかし最近、もしかして別の意味が込められているのかもと思い始めた。

割れた太陽みたいに
飛び散った日々も
消えてゆく 最初のメモリー
何処へ行きたいのだろう?
デタラメと呼ばれた君の自由の
翼はまだ閉じたままで眠ってる
ever free この夜を突き抜けて
目覚めれば 飛べるのか FReeに?

自分の思い描いていた夢は現実の壁の前にばらばらに崩れ落ち、
どこかへ消えてしまう。
自分が何処へ向かおうとしているのかも分からなくなってしまう。
無責任と言われた自分の夢を、この暗闇を突き抜けたときに再び追いかけることが出来るのだろうか?
彼が伝えようとしていたことは、こういうことだったのかもしれない。
最後に、彼の死後に発見、発表された、彼が完成させていたものの結局発表しなかった曲、「Junk Story」を紹介する。

見下ろしたそこは
あたたかい事でしょう
聞こえた歌も聞こえないほど
話す言葉忘れて
僕は何 歌いましょう
あの日の物語
明日の歌につなげようか
今も見える Junk Story
君の中の Junk Story
まわるまわる Junk Story
僕の中の Junk Story

「君」とは昔ロックに憧れ、そこに夢を見た少年時代の自分、そして「僕」は今、その夢をかなえ、ミュージシャンとして活躍する自分のことだと思う。
これは、夢(Junk Story)を描いた少年時代の自分に向けて、「今でもその夢が見えているかい?」と語った曲なのだろう。
彼はなぜ、この曲を発表しなかった(できなかった?)のか。
彼の魅力は尽きない。

『思考の補助線』

茂木健一郎さんの著書、「思考の補助線」を読んだ。
世の中の様々な現象や問題について脳科学という切り口から発せられる著者の主張は、これまであまり科学に関わりを持たなかった私にとって初めは非常に難解に思えた。
結局何が言いたいのかが分からず、途中で読むのをやめようかとも思ったが、それでも読み続けていくうちに徐々に理解が進み、多くの知的刺激を受けることが出来た。
まだその全てを理解できたわけではないが、ここでは特に私が興味を持ったテーマについて書き記しておこうと思う。
①「個性」を支えるパラドックス
日本の教育を議論するに当たって、「これからは個性が大事である」という主張を何度か聞いたことがある。
その一方で、学校の運動会や合唱祭で順位をあえてつけないなんていう事態を私も経験したことがあったし、小学校の徒競走で生徒が横一列に並んで手をつないでゴールするなんていう話を聞いたこともある。
無用の競争を避けるためにも、全体の調和を重んじようという日本人の考え方がそこに見て取れる。
また、事例を民主主義に置き換えれば、金持ちからもっともっと税金を徴収し、経済的弱者のため、社会福祉のために使うべきだという主張を聞いたこともある。
しかし、競争を排除し、個性を埋没させることが真に尊いことだとは私には到底思えない。個人の能力が正当に評価されない環境で、果たしてモチベーションは発揮されるのか。社会貢献それ自体は大変尊いことだとは思うが、個人が努力の末獲得した報酬をいわゆる「弱者」に分配することは、ただ単に努力を怠った人たちをさらに怠惰にさせるだけではないのか。
個性を埋没させ、全体の調和を重んじる社会からは「創造する力」が奪われる。
さて個性について著者は、以下のようなパラドックスを見出している。
「個性が社会全体の調和と相容れないというのは粗雑な議論であり、むしろ個性は他者とのコミュニケーションがあってこそ始めて磨かれる。
しかし同時に、ちょっと変わったことをするとからかわれるといった具合に、自分と異なる見かけや振る舞いを排除しようとする、「お互いを同質化する契機」を他者とのコミュニケーションは含んでいる。」
自分と違うものを尊重し、評価する精神に富んだ社会でこそ、個性は育てられるのだろう。
②「みんないい」という覚悟
女権拡張の一環としてMrs.とMiss.の区別を排除し、Ms.で統一するという話を聞いたとき、そもそも未婚か既婚かに上下の差などないはずなのに、なぜ取り立ててこのような議論が起こる必要があるのか当時私は疑問に思っていた。
これについても著者は面白い視座を与えてくれた。
「みんなちがって、みんないい」という考え方に共感する人は多いが、この考えを肯定するべく生まれた考え方が、本音ではこれを否定するという矛盾を生んでいるというのである。
上記の例で言えば、既婚者と未婚者を平等に扱うために呼び方を統一するという行為は、本音ではどちらかをより尊いと考えており、それゆえ下の立場にあるものを思いやるがためにわざわざ統一している一面を含んでいる。
本当に「みんなちがって、みんないい」という精神を持ち合わせているならば、わざわざ未婚、既婚の差異を埋める必要はないのかもしれない。

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star非常に文体が難しいので好みが分かれると思う。ただ、考えることが好きな人に興奮を与えてくれることは間違いない。

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『ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか』

梅田望夫さんの著書、「ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか」を読んだ。
パソコンの誕生、インターネットの普及、誰もがITに関する必要十分な機能を手に入れるチープ革命、そしてグーグルによる世界の知の体系化。
「知と情報」に関しては「リアルの地球」と同じくらい大きな「もうひとつの地球」とでも呼ぶべき存在へとネット空間が発展している中、その新しい可能性を試したくなるような興奮と視座をこの本は与えてくれた。
知がネットを介して容易に共有されるこれからの時代は、ある分野を極めたいという意志さえ持てば、あたかも高速道路を失踪するかのように効率よく過去の叡智を吸収できる。
しかし、この「学習の高速道路」を走りきったあたり(その道のプロ寸前)で待ち受けているのは、大渋滞である。
同質の勉強でたどり着けるのはそこまでである上、誰にも勉強の機会が開かれているだけに参加者も増え、後続が次々と同じ場所まで失踪してくる。
著者はこの大渋滞の先でサバイバルするための道として、大渋滞を抜け出すことを目指す「高く険しい道」と、高速道路を下りて道標のない道を歩く「けものみち」の二つがあるとし、それぞれの道を生きていくための視座が本書のメインテーマとなっている。
しかし、本書は決して「もうひとつの地球」でいかに飯を食っていくかに終始しているわけではない。
著者、そして本書の根底に流れているもの、それは「Optimism(楽観主義)」ではないだろうか。
サバイバルしようとする強いエネルギーは、サバイバルできた先の世界への希望から生まれるのであって、先行きの見えない不安からではない。
「The only way to do great work is to love what you do.」(偉大な仕事をする唯一の方法は、あなたがすることを愛することだ)というアップル創業者スティーブ・ジョブズも述べているように、対象を楽しもうというポジティブな考え方が成功するためには必要なのではないだろうか。
このポジティブなエネルギーを元に、自分が何になりたいのか、何をしたいのかを模索し、その実現のために日々自分を磨く。
分野を問わず、これは重要なことではないだろうか。
本書は就活中の学生に特に勧めたい。
「What I am」を「What I want to be」に変えるだけでも、
自分に合う職場を探そうというモチベーションが沸いてくるはずだ。

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)
ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書) 梅田 望夫

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